主人公の源太は両国の元町の居酒屋「春駒」の美貌の女将お小夜の情夫(いろ)である。図体ばかり大きくて、ドジで間抜けのうえに、着物の左袖を肩口のところで結んでいるという左腕の無い男であり、しかも顔一面、濃い無精髭(ひげ)におおわれている。これが源太の第一の顔。第二の顔として本所深川一帯を縄張りにしている岡っ引の回向院の文次郎の「下っ引」をひそかに務めている、そして第三の顔が、颯爽たる男前の左右両腕利きの《音なし源》なのだ…冴えわたるプロットと小気味よい殺陣で読ませる笹沢左保ならではのエンターテイメント。本巻に